独メルケル氏「退場」で揺れるEU

メルケル独首相は10月29日、与党・キリスト教民主同盟(CDU)が12月に開く党大会で党首として再選を目指さず、首相も2021年までの現在の任期限りで退き、政界からも引退すると表明しました。

今回の決断は、ドイツ産業の集積地であるバイエルン州議会選に続き、金融の中心都市フランクフルトなどがあるヘッセン州議会選でも敗北、しかも大敗という結果を受けての引責辞任という形です。バイエルン州の場合、CDUの姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)の後退でしたが、ヘッセン州での敗北は首相自身が率いるCDUのものだったため、より直接的な打撃になったものとみられます。

メルケル氏の「退場」は、ドイツのみならずEUにも大きな波紋を広げています。

2005年にドイツ首相に就任して以来、メルケル氏は欧州連合(EU)の実質的トップとして影響力を行使してきました。EUの経験したバブルとその破裂、さらには欧州債務危機など幾多の困難にも重要な仲介者の役割を果たしてきました。名実共にEUの礎を築いた政治家の1人と言われるメルケル氏が、EU誕生からちょうど25年となる11月1日を前に退場を発表したことは、一つの時代の終わりを象徴するものとなりました。

メルケル氏にとってターニングポイントなったのは、2015年夏、ハンガリーが国境の防衛を唱えた時、これを非人道的と非難し、「難民は1人たりとも拒否しない」と主張した出来事でした。その後、そのドイツ自身もあまりの難民の多さに流入制限に舵を切らざるを得なくなってしまったことが失敗と評価されてしまったのです。

今日の難民問題に対する世論の趨勢は、反グローバリズムの高まりと軌を一にしています。すなわち、自国の政治、経済、治安が破綻したという理由で、法律や国境手続きを無視して経済大国に押し寄せ、豊かな国の富の分け前にあずかろうとする人々に対し、多くの人々が不公平感を感じています。これは自由貿易に象徴されるグローバリズムの結果、自分たちの生活や雇用が脅かされていると主張する中間層の人々の思いとリンクしています。まさに、今回のブラジル大統領選挙の結果、トランプ大統領の人気、そして、メルケル政権へのNOがそのことを表しているといえるでしょう。

今後の大きな懸念は、そうした反グローバリズムが排他的な「人種差別主義」や極右的な「愛国主義」と結びついて、一種の「ポピュリズム」(大衆迎合主義)に陥っているようにみえる点です。

反グローバリズムを掲げる政治家が、本当にグローバリズムの弊害に歯止めをかけられるのかは疑問です。英国がEU離脱の国民投票を実施する前、反対派はEUへの負担金の大きさをその理由に上げていましたが、現在、英国が進めているのは離脱後にも負担金を支払いながら域内の自由貿易の恩恵にあずかる道です。

今後、EUの盟主である独仏の連携がEU存続の鍵を握ることになりますが、南北問題、英国の離脱、そして難民問題などに、メルケル後のリーダーが適切に対応できるのでしょうか。(S)

Weekly Voice by UPF

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