米朝会談の背後で影響力高める中国に警戒を

シンガポールで12日に開催された米朝首脳会談。北朝鮮の最高指導者と現職の米国大統領が初めて対面したという意味で、紛れもなく「歴史的」だったと言えます。しかし、成果の判定はそう簡単ではありません。

成果として言えることは、軍事衝突が起きるリスクが短期的にはほぼなくなったことでしょう。わずか10カ月前には、北朝鮮が「米国は制裁の何千倍もの報復に遭うだろう」と脅迫し、米国が「これまで世界が見たこともないような炎と怒りに遭遇することになる」と応じたことを考えれば、朝鮮半島の完全なる非核化が米朝直接交渉を中心とした外交交渉で進められる方針に舵を切ったことは評価すべきです。

開催地シンガポールや韓国のメディアなどは、こうした観点から概ね会談を評価しています。「会談は第一歩でゴールではない。この会談で結論を求めるのは時期尚早」というわけです。

一方で、欧米メディアの多くは否定的な論調です。非核化について目新しい成果や具体的な成果が何もなく、ただ単に、両首脳が切望するマスコミの注目を与えただけだという批判です。合意文書は総花的な目標を箇条書きにした内容の薄いもので、その実行に対する疑念の声も上がっています。

北朝鮮にとっては、会談を通じて体制保証、人権問題の合意文書への不明記、CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)も同じく不明記、米韓合同軍事演習の中止、国連制裁緩和など、多くの成果を手に入れたといえます。

ここで注目すべきは、トランプ氏が米韓演習の中止を正恩氏に言明したことです。首脳会談前にトランプ氏が文在寅(ムン・ジェイン)大統領と電話で会談していたにもかかわらず、青瓦台(大統領府)はこの発表に不意を突かれた様子がうかがえます。文大統領の政策ブレーン、文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官は15日、「廃止ではなく、交渉が続くかぎり中断するということなら問題はない」と語り、平静を装いましたが、在韓米軍の縮小など、韓国の安保に決定的な影響を与える重要事案を米朝が頭越しに決めてしまうことへは警戒感が広がっています。

交渉の渦中で同盟国である韓国との調整はおろか、コミュニケーションすらとれていない状態は、高度で複雑な外交交渉の舞台では相手に付け入る隙を与えてしまいかねません。日米韓の情報共有を強化することで対北朝鮮の交渉力を高めなければなりません。

米朝会談と今後の交渉について、背後で影響力を強める中国の動きも見逃してはいけません。北朝鮮の核問題が国際社会の注目を集め続けるなか、強い反発を受けることなく、着々と「南シナ海の軍事化」を進めてきた中国。軍事専門家の多くは「南シナ海の軍事化」が仕上げ段階に入っているとみています。

正恩氏は、習近平主席の支援や助言を求める形で、米朝会談を挟んで3度にわたり訪中。中国の影響力を印象づけました。また、在韓米軍の縮小ということになれば、今後、中国の韓国に対する影響力が高まり、朝鮮半島における中国のプレゼンスは急速に高まるでしょう。さらに、米朝、南北の両首脳会談の結果、北朝鮮のミサイルが韓国に向けて発射される可能性が減るとなれば、THAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)を韓国に配備する理由がなくなりかねません。これも中国にとって大歓迎です。

こうした懸念を日米韓がしっかりと共有し対応していくことは、東アジアの安全保障にとって切迫した課題といえるでしょう。

(T)

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