米国の輸入制限発動が生む経済的・軍事的緊張

試される国際協調 「貿易戦争」報復措置の応酬に懸念

米国トランプ政権はきょう23日、中国による過剰生産によって鉄鋼やアルミニウムが安く輸入されていることが安全保障上の脅威になっているとして、異例の輸入制限措置を発動しました。これにより、鉄鋼には25%、アルミニウムには10%の高い関税を課すことになります。

最大の標的である中国だけでなく、日本を含む多くの国が対象となっており、各国は除外を働きかけていく方針ですが、明確な基準が示されておらず、トランプ政権の一方的な姿勢が鮮明になっています。

これに先立つ20日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、共同声明で「保護主義と闘う」とした昨年7月の首脳合意を「再確認する」としたうえで、「さらなる対話と行動が必要」との文言が追加され、米国の保護主義政策に懸念が表明されましたが、無視された形です。

各国政府は、米政府の措置がルールに基づく通商秩序を乱し、貿易戦争につながりかねない極めて危険な決定であり、改善傾向にある世界経済への悪影響も懸念されるとして、そろって撤回を求めています。

22日、議会上院の委員会で証言したライトハイザー通商代表は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を行っているカナダとメキシコのほか、欧州連合(EU)やオーストラリア、それに、韓国など7つの国と地域が、当面、除外されるという見通しを示しました。日本については、除外のリストに載っていないと明言する一方、日米両国の間で自由貿易協定(FTA)を締結することに意欲を示しました。

16〜18世紀、主権国家形成期の絶対王政諸国が採った「重商主義」政策が保護貿易主義の最初の形態でした。東インド会社に貿易を独占させるなど典型的な重商主義を展開していた英国では、産業革命などを経て、産業の発展には保護主義はかえって有害であると説くアダム・スミスやリカードらの自由貿易主義が台頭し、次第に政策を転換していきました。

そんな英国から独立した米国が、第二次大戦後に関税貿易一般協定(GATT)の発効を主導し、1995年のWTO体制の道筋をつくりました。2世紀あまりを経て、自由貿易やグローバリゼーションの深化を米国民から富や繁栄を奪った「敵」とみなし、「米国製品を買い、米国民を雇う(Buy American, Hire American)」を第一のルールに掲げたトランプ大統領率いる米国は、重商主義に「先祖返り」してしまうのでしょうか。

トランプ政権が鉄鋼製品への関税に加え、通商法301条に基づき、中国からの幅広い輸入品に関税を課す制裁措置の発動を決めたことで、中国政府は報復措置も辞さない構えです。EUも当面は除外されるものの、最終的な除外決定が行われない場合、米国からの輸入品に報復関税を課すとして、対象となる品目リストの素案を公表しています。

一方のトランプ氏は「貿易戦争は他国に損害を与えるが米国は無傷だ。貿易戦争は悪いことではない」と、全く意に介していません。

そもそも米政権の強硬策は中国の軍事的・経済的台頭を対象にしたものですが、中国のアジアにおける覇権追求や、経済分野での不公正な貿易慣行について、米国一国の法律や政策で対応できないことは自明の理です。日本、韓国などのアジアの同盟国や欧州との連携の意義を無視し、独善に走る米国の手法は逆効果です。

今回の措置について、米政権は世界貿易機関(WTO)が例外として認める「安全保障上の脅威」を輸入制限の理由にしていますが、同盟国である日本を対象にするなら、その意図は意味不明というほかありません。

報復が連鎖する「貿易戦争」が現実味を帯びるなか、日欧と米国の同盟関係の軋みを見透かすのように、今月1日、ロシアのプーチン大統領は新型大陸間弾道ミサイルの開発を発表しました。経済・軍事両面で世界的な緊張が高まっています。(S)

Weekly Voice by UPF

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