「国益優先」と「多国間協調」の間で揺らぐ国際社会

米のユネスコ脱退表明から見えてくるもの

ユネスコ(国連教育科学文化機関)――。今年7月、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)の世界文化遺産への登録が決まった際に、その登録機関として耳にした方も多いことでしょう。

そのユネスコに対し、トランプ米政権は昨日12日、脱退の意向を伝えました。声明を発表した米国務省のナウアート報道官は、「ユネスコは反イスラエル的偏向を続けている」と、ユネスコの政治的な姿勢を強く非難しました。

ユネスコは7月、パレスチナ自治区のヘブロン旧市街を世界遺産に登録しており、パレスチナと対立を続けるイスラエル側が、ユダヤ教との関わりが無視されていると強く反発していました。イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしているトランプ政権もこれに反発した形です。イスラエルのネタニヤフ首相も同日、声明でこれを歓迎し、イスラエルも脱退の準備をするよう外務省に指示したことを明らかにしました。また、先の国連総会ではトランプ大統領とともに、メイ英首相も国連分担金は公平でないと削減を予告しています。

「米国第一主義」を掲げ、自国の利益のためなら国際社会との摩擦もいとわない姿勢を貫いているトランプ大統領。就任以来、環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱表明など、国際協調から相次いて離脱し、孤立路線を強めていることに国際社会も懸念しています。

一方、ユネスコについてもここ30年来、米英を中心に抜本的な改革の必要性が叫ばれてきました。1984年、当時のレーガン政権はこの組織の反米主義、浪費、ユネスコ憲章からの逸脱を非難して、一度脱退しています(2003年に復帰したものの、11年以降、パレスチナのユネスコ正式加盟に反発してオバマ前政権が分担金の支払いを凍結)。共産圏や第3世界の発言力が強まり、公平・中立であるべきユネスコが政治化していることにも批判が高まっており、教育や文化の振興を通じて戦争の悲劇を繰り返さないという理念とは裏腹に、実態は生々しい国際政治の駆け引きの場となっていることは否めません。

こうした状況は、けっして日本と無関係ではありません。15年10月、中国が申請した「南京大虐殺の記録」が世界記憶遺産に登録された際、審査過程で日本の考え方が反映されませんでした。米国が長らく拠出を凍結し、日本は負担率の実質トップでありながら、何の影響力も行使できませんでした。政府はこれに抗議する意味で、昨年は通常4、5月に拠出する分担金を12月まで出さずにいました。

今月24日からはパリで記憶遺産の審査が行われる予定ですが、菅官房長官は先月12日の会見で、日中韓を含む8カ国15の市民団体が出した慰安婦記録物を遺産に指定する場合、分担金の留保など「行動を取る」と警告しました。

ただ、米英と同様に日本も分担金拠出を凍結、あるいはユネスコを脱退すればいいといった単純な問題ではありません。すでに分担金の負担割合では日本に次いで中国が3位となっており、分担金拡大をてこに影響力を拡大することが懸念されます。

第2次大戦後、世界や地域平和のために作られたユネスコをはじめとする国連、欧州連合、北大西洋条約機構などの機関が、現在、設立に関わった国々の「国益優先主義」政策で危機を迎えています。

今こそ、各国は国連の組織改革やその活動の透明性を高め、プロセスを公正なものにする制度改革に本気で取り組まなければなりません。ユネスコをめぐる状況は、世界平和を希求する国際社会への重要な信号の1つと考えるべきです。(S)

Weekly Voice by UPF

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