アベノミクスは成功、それとも失敗?

経済構造の変化に対応できる成長戦略の強化を

「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」の「3本の矢」からなるアベノミクスは成功したのか――。

第2次安倍内閣の2012年末に掲げられてから約4年半が経過し、7月31日には国際通貨基金(IMF)が日本経済に関する年次報告書を発表しました。この報告書をめぐっては、英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」が「IMFがアベノミクス成功と宣言」として伝えました。

報告書について、IMFのデビッド・リプトン筆頭副専務理事は、「アベノミクスは成功したものとみなされるべきで、成功しているからこそ続行すべきだ」とコメントしました。さらに、「アベノミクスは日本経済の状況を改善し、構造改革を軌道に乗せた。金融緩和を成功させ、企業収益を引き上げるとともに、雇用と女性の職場参加を増大させた」と、最大級の評価をしています。

一連の腐敗疑惑や閣僚の失言、失態によって支持率が安定しない安倍政権にとっては、こうしたアベノミクスの成果をアピールしたいところですが、残念ながら国内では「消費が盛り上がらず、むしろ縮小している」「富裕層の資産が過去最高を記録する一方、分配率はなかなか改善されず、一般国民は経済成長の実感が持てない」「2%の物価上昇目標が達成可能という前提に問題あり」「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の最重要メンバーである米国の離脱で、日本の成長達成は絶望的」など、不信や批判の声が目立っています。

メディアの中でも相異なる見出しが踊ったのも無理からぬことで、そもそもIMF自体が「自由貿易・資本市場の自由化・価格決定の自由化」などを旨としていることから、その観点でアベノミクスについて評価できる反面、これに批判的な専門家からは、「IMFが掲げる経済原則に、近年見られるゆらぎによって、報告書でははっきりとした結論を出せないという、IMFのジレンマを反映したものだ」との声もあがっており、二元論的な結論を避けた玉虫色の報告書になっているというのが事実のようです。

確かに、この4年半で雇用は大きく改善し、物価も一時のマイナスからプラスに回復しています。景気についても、統計上は低空飛行ながら改善しています。問題は、景気拡大局面が続き、雇用も完全雇用状態だというのに、国民の多くがそれを実感できていない点にあります。

この点について、慶応大学の井手英策教授は、「好景気が長く続くことと、人々の暮らしが良くなることは別のものになっている」と指摘しています。

井手教授は、日本社会で賃下げや雇用の非正規化が進み始め、企業もキャッシュフロー重視や内部留保依存型の経営に転換していった97年以降、統計上でも世帯当たりの可処分所得が減り続けており、共稼ぎの増加で世帯で働く人は増えているにもかかわらず、収入はむしろ減っていることを挙げながら、「成長を前提とする政策発想ではもう限界」と強調しています。

しかし、こうした経済構造の変化に対応していくためにも、優先すべきはやはりアベノミクス第3の矢である「成長戦略」の強化ではないでしょうか。若者や子育て世代の消費を喚起するためには、現役世代への所得移転を促す社会保障制度や税制改革に正面から取り組まなければなりません。と同時に、経済主体の期待と行動を持続的に変化させるために、生産性向上に向けた人材・物流の流動化と確保、イノベーションの創出などを通じて従来の規制を打ち破るような新陳代謝の促進、さらに賃上げにつながる労働市場改革や人材育成戦略を最優先で進めるべきです。(S)

Weekly Voice by UPF

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