北朝鮮・金正恩氏、戦略目標にブレなし

交渉相手は米国のみ 核小型化を取引材料に在韓米軍撤退狙い

朝鮮半島の緊張が依然高まっています。米国グアム島周辺に向けた弾道ミサイルの発射計画について、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は「米国の行動をもう少し見守る」と述べ、いったんはトランプ政権の出方を見極める姿勢を示しました。しかし、「一歩引いた」とか「留保した」と思うのは早合点。あくまで米国の出方次第です。

時期はともかく、北が計画通りにグアムにミサイルを発射すれば、米国が「本土を攻撃された」として反撃し、本格的な軍事衝突に発展する可能性もあります。日本にとっても、集団的自衛権の行使に踏み切るかどうかのテストケースとなるでしょう。

それにしても、米国を相手に危険なゲームを展開する金正恩氏とはいかなる人物なのでしょうか。

最近、朝鮮半島問題の専門家で南カリフォルニア大学で教授を務めるデビット・カン氏が外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に興味深い論文を寄稿しました。タイトルは「平壌のオオカミ」。正恩氏は「株式会社北朝鮮」の最高経営責任者(CEO)として実績を残しているという内容です。

CEOは会社のミッションとビジョンを設定し、ヒト・モノ・カネという経営資源を有効に活用しなければなりません。部下を動機づけて業績を挙げる一方、時には、採算の取れない事業は清算しなければなりません。さらには、成績の悪い社員や会社の方針に一致しない古参幹部も解雇(粛清)する必要も出てきます。

「先軍政治」を掲げ、軍を第一に考えた父親の正日(ジョンイル)氏とは違い、正恩氏は経済建設と核開発を同時に進める「並進戦略」を掲げています。核開発が進んでいるのは説明するまでもありませんが、国内経済は父親の代よりも活気づいています。カン氏の指摘どおり、これらを正恩氏の業績と考えるとすると、彼は若いながらも相当聡明なリーダーということになります。

また、何よりも正恩氏の戦略目標は一切ブレることがありません。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領が北朝鮮との対話のチャンネルを開こうと、あの手この手を使っていますが、全てなしのつぶてです。恐らくは北朝鮮の交渉相手は米国一本で、韓国など眼中にないのでしょう。米国本土まで届くICBMの核小型化を実現し、米国と対等の立場で交渉する力を持つことで、在韓米軍の撤退を実現するのが狙いです。米軍がいなくなれば、核の力による朝鮮半島の統一がいよいよ現実味を帯びてきます。

米軍が撤退に踏み切るかどうかは分かりませんが、重要なのはそこに対する正恩氏の戦略目標にブレがないという点です。その観点からみると、米国との軍事衝突は避けたいというのが正恩氏の本音ではないでしょうか。

最近では、英エコノミスト誌が「米国は冷戦時代に核を保有したソ連と共存した。これからは核を保有した北朝鮮と共存する道を探るべき」との記事を掲載しました。韓国外国語大学の尹徳敏(ユン・ドクミン)碩座教授(※)は日本経済新聞とのインタビューで、「ICBMが取引の材料になり得る」と指摘しました。これは北朝鮮がICBMの開発をやめる代わりに、米国は自国の本土に届かない短距離弾道ミサイルに載せる核については黙認することを意味します。日韓など東アジアの危機は消えません。(H=ソウル在住)

※碩座教授〜寄付金によって研究活動をするよう大学が指定した教授

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