「便乗型テロリスト」の増殖防ぐには

「個人的な不満」が容易に「集団的な敵意」と結びつく時代

マンチェスター・アリーナ、ロンドン橋と続いたテロ事件の後、英国ではムスリム(イスラム教徒)を標的としたヘイト・クライム(憎悪犯罪)が急増しています。19日には、47歳の男が運転する車がモスクに集まったムスリムの間を暴走し、1人が亡くなり、10人が負傷する事件まで起きました。

メイ首相は、この事件を「テロ」と呼びましたが、「テロ」と「犯罪」は、どこで線引きがなされるのでしょうか? テロは、犯罪の一部には違いありませんが、特に「政治的目的」を達成するために行われる破壊活動(殺人など)だとされています。

ちなみに、今回のモスク突入事件の犯人は、過度の飲酒や、職場、家庭での暴言など、普段から素行に問題がある人物でした。また、強固な反イスラム思想の持主であったとの証言もなく、人種差別的なグループに所属していた形跡もありません。

したがって、この事件は日常的に不満、ストレスを抱えていた中年男性が、その鬱憤を晴らす矛先を、世間で悪者扱いをされているムスリムに向けたものだと考えられるのです。これは、明確な政治的目的をもったテロというよりは、単なる殺傷事件です。

その観点から見ると、昨今、ヨーロッパで増えているテロ事件自体が、政治的なテロなのか、個人的な不満を爆発させた殺傷事件なのか、非常にあいまいになっていることが分かります。インターネットなどで流される過激な情報に触発されてテロを行う「第三世代」のテロリストたちは、組織だった思想教育も軍事的な訓練も受けていないことが多く、標的の選定も稚拙で曖昧です。その結果、政治的な効果が弱まる一方で、関係のない一般の人々が巻き込まれる確率は高くなります。

彼らに対しては、もはやテロリストなのか、単なる無差別殺人鬼なのか、明確に線を引くことができません。第三世代のテロの恐ろしさは、まさにそこにあるのです。日常的に不満や疎外感を感じている人々が、何らかの政治的口実に触れて、簡単に「テロリスト」に変身してしまうのです。

オーストラリアのシンクタンク「経済平和研究所(IEP)」によれば、テロが起こる地域には、「集団的な敵意と不満」「高い犯罪率」などが存在するとされています。つまり、もともと、犯罪とテロとは非常に近いところにあるのです。

「集団的な敵意と不満」が、個人の不満に政治的正当化の口実を与え、破壊的な行動に駆り立てます。西洋社会になじめない移民の子供たちが、簡単に「イスラムの闘士」となり、移民に偏見を持つ男たちが、簡単に「ムスリムに制裁を加える愛国者」となるのです。

そうした文脈の中に、米ヴァージニアで共和党議員を狙撃した左派の男性も位置づけられるかもしれません。犯人の男は個人的にも失業中だったと言われますが、メディアの扇動などで高まる民主党と共和党の間の集団的敵意に便乗して「トランプに鉄槌を下す民主主義の擁護者」を演じようとしたのでしょう。

現代の情報化社会は、個人が抱く不満や敵意が、巨大なネットワークに簡単につながり、大規模テロを起こす手段にも容易にアクセスできる危険な時代です。それだけに、家族、友人、地域コミュニティなどのつながりを見直すことが大切でしょう。隣人が抱える心の葛藤に、無関心ではいられない時代なのです。(O)

Weekly Voice by UPF

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