米メディアの試練と民主主義の危機


英オックスフォード辞典が、昨年の「Word of the Year(今年のことば)」として「Post-Truth(ポスト・トゥルース=脱真実)」を選んだのは記憶に新しいところです。ツイッターやフェイスブックなどのSNSで、客観的事実よりも感情や個人的思想に訴える情報によって、世論が形成されがちになっている状況です。フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏はかつて、記事が多数の目に触れることで誤りを指摘する人が現れ、結果として不正確で間違った情報は淘汰されていくと指摘していました。しかし、現実には捏造された情報がネットを通じて圧倒的な規模で拡散、シェアされていく一方で、しっかりとした情報やニュースが露出されにくくなっているのです。

こうした中、今年新たに登場したキーワードが「Alternative Facts(オルタナティブ・ファクト=もうひとつの事実)」です。この言葉を世に送り出したのは、他ならぬトランプ政権の大統領顧問、ケリーアン・コンウェイ氏でした。スパイサー米大統領報道官が、就任式の参加者人数についてメディアが過小評価したとの批判に対し、NBCのインタビューで「なぜ大統領は報道官に事実と異なることを言わせたのか」と問われたコンウェイ氏は、「報道官が提供したのは、オルタナティブ・ファクトだ」と答えたのです。

一方、問題の背景には米国民の既存メディアに対する不信感があります。米ギャラップ社による昨年の調査では、「マスメディアがニュースを完全、正確かつ公平に報道しているか」について、「非常に信頼している」もしくは「信頼している」と答えた人は全体の32%で、同社が調査を始めた1972年以来、史上最低レベルになりました。

既存メディアに批判的な人々は、新聞やテレビなどの既存マスメディアが長年にわたって、その特権的立場から伝えてきたニュースが社会的エリートたちの基準で選別された「事実」に過ぎず、米国民の多くが必要とする「事実」ではなかったと感じています。例えば、先の選挙戦で、大手メディアがトランプ氏を激しく批判する一方、クリントン氏を好意的に取り上げ過ぎていると、多くの国民は感じ取っていました。

かくして、事実に基づいたニュースが価値を失い、「偽ニュース」「脱真実」「もうひとつの真実」がすべて横並びで語られる状況は、民主主義の大きな危機と言えるでしょう。

民主主義において重要なことは、健全な世論の形成と社会の合意づくりですが、今はその世論の起こり方が大きく変化している時だといえます。(S)

Weekly Voice by UPF

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