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記事一覧(72)

米国が北朝鮮との首脳会談中止を通告

敵対的言動と小細工で墓穴をほった北朝鮮、面目失った韓国米トランプ大統領が米朝首脳会談の中止を表明したことで、韓国の青瓦台(大統領府)やメディア、研究者らの間で失意が広がっています。筆者もトランプ大統領の発表の直前まで、専門家などから「来月12日に米朝首脳会談はほぼ確実」との意見を聞いていましたので、さすがに驚きました。前回のコラムでは、米朝首脳会談は通常とは違いトップの属人的性格が強いため予測不可能だと書きましたが、それ以上の不測の事態になったと言えます。朝鮮半島を中心に各国の利害が交錯しています。今回の一連の流れではっきりしたことと今後の展望を国別に整理しておきましょう。まずは韓国です。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の狙いはあくまでも戦争回避です。そのためには、制裁より対話を重視。そのプロセスの中で「非核化が実現すればいい」というスタンスでした。今後も、戦争回避に向けて北朝鮮との対話を重視していくと思われます。その一方で、「北朝鮮に非核化の意思があると必要以上の期待を抱かせた」として文大統領が、トランプ大統領から米朝首脳会談中止のスケープゴートにされる恐れも出てきました。会談中止で最も割を食ったのが北朝鮮でしょう。北朝鮮には「米国から体制保証を取り付ける」という意図がありました。4月27日の南北首脳会談まではスムーズにことが運んだのですが、中国という後ろ盾を得て安心してしまったのか、いつもの敵対的な表現が目立ったり、北東部の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の爆破に、当初予定していた専門家を招かなかったりするなど小細工に走りすぎてしまったようです。北朝鮮は会談の実現に向けて、しばらくはおとなしくすると思いきや、さっそく北朝鮮の金桂官(キム・ゲグァン)第1外務次官が首脳会談中止について談話で、「私たちは常におおらかで開かれた心で、米国側に時間と機会を与える用意がある」と相変わらずの「上から目線」ぶり。これでは、会談実現は難しいと言わざるをえません。有利な立場にあるのが米国です。北朝鮮が完全な非核化に応じるまで、圧力と制裁の強化を維持する構えです。「Bad Deal(悪い取引)よりもNo Deal(取引しない)のほうがマシ」とするトランプ氏の立場も国内で支持されるでしょう。一方、日本は慎重な外交姿勢が評価される形になりました。今後しばらくはトランプ氏の制裁路線を支持していけばいい立場です。文氏はトランプ氏の信頼を失ったその一方で、「制裁と圧力を重視したシンゾーはやっぱり正しかった」となるのではないでしょうか。最後に中国です。今回の会談中止を通じて、改めて中国が朝鮮半島の現状維持を望んでいることが明確になりました。今後も、陰に陽に半島情勢に関与してくるでしょう。それはまた、中国が本気にならなければ、北朝鮮の核問題は解決しないということを意味するのです。(H=ソウル在住)

米朝首脳会談、北は「段階的非核化」提示か

型破りな2人の指導者による会談は予測不能?米朝首脳会談が6月12日にシンガポールで開催されることになりました。具体的な核放棄措置や期限で合意できるかが焦点となります。今回は、その米朝会談の行方を占ってみたいと思います。専門家の多くは予測が困難だと言っています。国際情勢のゆくえというのは、過去にあった類似の事例を分析することで、ある程度予測することができるのですが、今回ばかりはそうした通常のアプローチが通じないからです。それほど米朝会談は、トランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長という2人の指導者の属人的な要素が極めて強い異例の会談だといえます。そんな異例の会談ですが、大まかに4つのパターンが考えられます。最初のシナリオは、トランプ氏が求める完全即時の非核化に対し、正恩氏に応じる意思が強く、その方法や期限について合意に至るというものです。最も望ましいとされるシナリオですが、逆に可能性は最も低いと思われます。2番目のシナリオは、正恩氏に完全非核化の意思がなく、トランプ氏のほうは北の完全な非核化に対して妥協しないケースです。この場合、トランプ氏が会談の途中で席を離れる可能性が非常に高いといえます。会談の決裂後に朝鮮半島の緊張が一気に高まりそうです。3番目のシナリオは、正恩氏に非核化の意思があるものの、段階的な非核化を求め、それに応じて見返りを強く求める一方、トランプ氏は即時非核化を譲らないのに加えて、人権問題を持ち出す場合です。この場合も決裂の可能性が高くなります。そして最後は、正恩氏に完全非核化の意思はないものの、トランプ氏が目に見える実績を求めて妥協するシナリオです。例えば、北朝鮮のミサイルについて、米国本土に届くICBMは放棄させるものの、日本や韓国が射程距離に入る中距離ミサイルの保有は認めるなどの場合で、これは日本にとっては最悪のシナリオになります。しかし、トランプ氏は北朝鮮とは取引しないと言っていることから、4番目のシナリオの可能性も低いでしょう。筆者は、少なくともトランプ氏が会談の途中で席を立つ可能性は低いと考えています。なぜなら、正恩氏は北朝鮮の経済発展を真剣に考えているふしがあるとみているからです。正恩氏は経済制裁の解除が何よりも重要であることを理解しています。韓国メディアによると、正恩氏は4月27日に開催された南北首脳会談で、ベトナム式の経済発展を目指したいとの考えを文在寅(ムン・ジェイン)大統領に伝えたようです。ベトナムは経済開放に転じた1986年を起点に、共産主義体制を維持しながら高度成長を続けています。正恩氏は、外資に対する規制が少なく、米国との関係が緊密な点で、中国式の「改革・開放」よりもベトナムの「ドイモイ(刷新)政策」に魅力に感じているもようです。そうなると、北朝鮮の段階的な非核化の可能性が高いと言えます。中国、ロシアもこれを支持しており、韓国も北朝鮮に一定の理解をしていることから、最終的には時間をかけて進めるしかないのではないでしょうか。経済解除はその段階に応じて解除されていきそうです。完全非核化にかかる時間は、正恩氏のコミットメント、そしてトランプ氏と信頼関係にかかっているといえるでしょう。(H=ソウル在住)

朝鮮半島に「平和と繁栄の新時代」は訪れるか

歴史的な南北首脳会談に世界の関心と期待が集まる10年半ぶりとなる歴史的な南北首脳会談――。きょう27日午前9時29分、軍事境界線を挟んで北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が握手を交わし、歴史的な瞬間が到来しました。韓国大統領府は午前の会談で、朝鮮半島の非核化と恒久的な平和体制の構築、南北関係発展について率直な議論を交わしたと発表しました。このコラムの執筆時点では共同発表はされていませんので、その内容に関するコメントは次回に回します。今回は首脳会談に対する韓国側の反応について触れたいと思います。朴槿恵(パク・クネ)前大統領を支持する一部の強硬な保守派を除けば、国全体の関心と期待が集まっています。ソウル図書館(旧ソウル支庁)の建物には「南と北が作る平和、ソウル市も一緒に行きます」と書かれた巨大ポスターが掲げられました。あるソウル市民は、「南北関係が正常化に期待している。早く軍事境界線を越えて北朝鮮に足を運んでみたい」とコメントしました。共同発表を待つ市内は、観衆がサッカーのPK戦を見守るような雰囲気に包まれています。経済界も南北首脳会談を歓迎しています。大韓商工会議所は「緊張と対立の時代が終わり、平和と共存の新しい時代を迎えることを期待する」と論評。日本の経団連に相当する全国経済人連合会は「朝鮮半島の地政学的リスクが解消され、経済活力が高まることを期待したい」とコメントしています。金正恩委員長は今月20日に開いた朝鮮労働党中央委員会総会で、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射を中止すると表明。「強力な社会主義経済を建設して人民生活を画期的に高める闘いに全力を集中」するとしました。一方の韓国も、文大統領の任期は残り4年。さらに、保守系は収賄の罪で起訴された朴、同容疑で逮捕された李明博(イ・ミョンバク)の両大統領経験者が収監される壊滅的な状況であるため、次期大統領も南北融和に軸足を置く革新系が選ばれる可能性が高まっています。南北両国は今後、経済協力に向けて信頼関係を深めていくと思われます。何よりも、文大統領と金委員長は今回、会談を通じて、悲願である「民族同一性の回復」に対する自信と確信を得たいところでしょう。朝鮮半島全体の平和と繁栄につながる協議となるか。非核化に向けた具体的な合意を含め、国際社会が固唾(かたず)を呑んで見守っています。(H=ソウル在住)

首脳会談で「非核化」は建て前? 「連邦制」模索する南北

米韓同盟より「民族の同一性」優先する文政権南北首脳会談の開催が4月27日に決定しました。韓国側の説明を要約すると、「北朝鮮は非核化や米国との対話の意向を持っている。南北首脳会談の条件が整った」といったところでしょう。しかし、果たして韓国はどこまで北朝鮮の非核化にこだわっているのでしょうか? 残念ながら、非核化は建て前でしかないというのが筆者の見立てです。これまでのコラムでも説明してきましたが、文政権の優先事項は非核化よりも戦争回避です。何がなんでも核放棄を約束させ、緊張緩和のための対話を始めるという強硬な姿勢というよりは、これ以上状況を悪化させないため、まずは対話を始めようという立場です。極端な話をすれば、仮に非核化に向けた交渉が失敗したとしても、文政権下の韓国は南北の統一という究極的な目標に向けて北との対話を続けていくでしょう。それは北も同じです。そのためにも、どちらかが甚大な被害を受けるような戦争は避けたいというのが本音ではないでしょうか。北朝鮮も無傷のソウルを手に入れたいはずです。それでは、板門店に来る金正恩氏は、文氏に何を提案するのでしょうか。「南北はまもなく連邦制になる」。中国側に出てきている北朝鮮の貿易商たちが口々にこう話しているようです。北朝鮮が思い描いているのは「完全な統一」ではなく、南北を「連邦」として緩やかにつなぐ「連邦制」による統一です。この考え方は、1960年代から北朝鮮が主張してきました。代表的なものは「高麗連邦共和国」です。「自主・平和・民族大団結による統一」というスローガンのもと、一民族・一国家・二制度・二政府の下で連邦制による統一を主張しました。中国と香港の関係に近いものです。しかし、「高麗連邦」案には、朝鮮戦争(1950〜53年)で結ばれた休戦協定の平和協定への転換と在韓米軍の撤収など、韓国側が簡単に飲めない条件もついています。さすがの文政権もジレンマに陥るかもしれません。しかし、今の青瓦台(大統領府)のスタッフの半分以上が学生運動経験者であり、北朝鮮に対して強いシンパシーを感じていることや、保守勢力が壊滅的な打撃を受けている点などを考慮すれば、文政権が米韓同盟よりも「民族同一性の確保」を優先していく可能性は捨てきれません。(H=ソウル在住)

予測不可能な時代を生き抜くための教育とは

小学校「プログラミング」必修と注目集めるSTEM/STEAM教育いま、教育界で注目を集める「STEM(ステム)教育/STEAM(スティーム)教育」。米国で1990年代に提唱されたコンセプトが、日本でも広く浸透してきました。STEMとは、米国立科学財団(National Science Foundation=NSF)が21世紀の社会で子供に身に着けさせておくべき力として、90年代に発表したもので、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取ったものです。2013年には国家戦略となり、K-12(幼稚園から高校までの12年間)のカリキュラムもこれに沿ったものになっています。また、STEAMは、STEMに芸術(Art+デザイン)を加えたものです。革新的な取り組みや課題解決を行うためには、科学だけではなく、人間の感情や感覚についても学ぶべきという考えに基づいています。高度な技術開発と、未だ不確実な要素を多くもつ人間についての研究成果の融合が、今後ますます必要とされていくでしょう。近年の技術革新は「第4次産業革命」と呼ばれるほどめざましく、身の回りにあるモノすべてにインターネットがつながる「IoT(internet of things)」、仮想空間を体験できる「VR(virtual reality)」などの普及が進むなか、社会のあらゆるシステムがビッグデータやAI、ロボットを前提としたものに変化していくとみられています。野村総合研究所は15年、英・オックスフォード大学との共同研究で、国内601種類の職種ごとの10〜20年後を予測した結果、日本の労働人口の49%が、AIやロボットで代替できる可能性が高いとの結論を発表しました。こうした大きな時代の流れのなかで、日本ではAIやテクノロジー進化を生み出す理数系人材や人の感性に訴える芸術系人材は圧倒的に不足しています。AIに代替されにくいSTEM/STEAM教育を施された人材育成は急務といえます。すでに米国やシンガポールなどが国家主導でSTEM/STEAM教育を進めてきたのに比べると、日本はこれまで民間レベルでの取り組みに留まっていました。しかし日本でも、小学校で20年の次期学習指導要領からプログラミング教育が完全実施されることになりました。20年から実施される新学習指導要領では、 ・小学校で算数や理科、総合的な学習の時間など、どこかでプログラミング教育を体験させる ・高校で、理科と数学にまたがる選択科目「理数探究」を新設し、情報は従来の2科目選択を共通必履修の「情報I」に改め、全員にプログラミングやネットワーク、データベースの仕組みを学ばせるなどの改訂が行われました。今年4月1日からは、小中学校で移行措置が始まっており、文部科学省、総務省、経済産業省の3省が連携して運営する「未来の学びコンソーシアム」は3月30日、Webサイトを「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル Powered by未来の学びコンソーシアム」にリニューアルオープンしました。STEM/STEAM教育というと、理工系に進む人にしか関係ないのではないかと思いがちですが、大切なことは文系・理系に限らず、これからの時代が多くの分野で急速な技術革新を前提にしている点であり、そうした技術に使われるのではなく、それを使いこなす能力が求められることでしょう。予測困難な時代となり、課題や正解が比較的明確であった時代の教育では対応できなくなっている現実に目を向けながら、その都度学び、他者と共生しあいながら、新しい価値を生み出していくための能力を育むための教育が議論されなければなりません。(S)

断てるか、「ゴルディアスの結び目」

包括的な解決めざす韓国大統領府「ゴルディアスの結び目を断つ」。筆者が伝え聞くところによると、韓国・青瓦台(大統領府)の関係者は、南北首脳会談と米朝首脳会談を前に、北朝鮮の非核化という難題に挑む意気込みをこのように明らかにしたようです。これは、誰もがほどけなかった結び目(解決できない難問)を剣で一刀両断してみせたアレクサンドロス大王の伝説を引用したもので、つまりは北朝鮮の非核化と朝鮮半島の休戦協定に代わる平和協定の締結などを一括して解決しようという意図です。これまでの非核化に対するアプローチでは、交渉→合意→検証→破棄→挑発といった悪循環を断ち切ることができなかったという反省からくるものです。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が今回、韓国と北朝鮮、米国の3国首脳会談を提案したのもその流れで、まずは南北関係を改善した土台の上に、米朝が非核化に向けた話し合いを行い、その後で恒久的な平和体制を構築しようとする狙いがあります。文大統領は「朝鮮半島に平和を根付かせるには米国の保証が必要だ」と話しており、米朝関係が改善すれば、南北間の経済協力も可能性があるとみているようです。一方、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が訪中し、習近平国家主席と会談しました。「段階的な非核化」を求める北朝鮮としては、中国が後ろ盾として存在感を強めれば、米国は軍事行動を取りにくくなるとの読みがあったのでしょう。この中朝首脳会談では、金委員長が習主席に核の放棄と市場経済への移行を約束し、東部の元山と西部の南浦の港を開放し、ゆくゆくは米国船の受け入れを認めるとの話も出ているとのうわさがまことしやかに流れています。真相は分かりませんが、今は何が起こってもおかしくない時です。日本の立ち位置は微妙ですが、制裁一辺倒で孤立しないように柔軟性を持って、東アジア情勢の変化に対応する必要があるでしょう。(H=ソウル在住)

米国の輸入制限発動が生む経済的・軍事的緊張

試される国際協調 「貿易戦争」報復措置の応酬に懸念米国トランプ政権はきょう23日、中国による過剰生産によって鉄鋼やアルミニウムが安く輸入されていることが安全保障上の脅威になっているとして、異例の輸入制限措置を発動しました。これにより、鉄鋼には25%、アルミニウムには10%の高い関税を課すことになります。最大の標的である中国だけでなく、日本を含む多くの国が対象となっており、各国は除外を働きかけていく方針ですが、明確な基準が示されておらず、トランプ政権の一方的な姿勢が鮮明になっています。これに先立つ20日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、共同声明で「保護主義と闘う」とした昨年7月の首脳合意を「再確認する」としたうえで、「さらなる対話と行動が必要」との文言が追加され、米国の保護主義政策に懸念が表明されましたが、無視された形です。各国政府は、米政府の措置がルールに基づく通商秩序を乱し、貿易戦争につながりかねない極めて危険な決定であり、改善傾向にある世界経済への悪影響も懸念されるとして、そろって撤回を求めています。22日、議会上院の委員会で証言したライトハイザー通商代表は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を行っているカナダとメキシコのほか、欧州連合(EU)やオーストラリア、それに、韓国など7つの国と地域が、当面、除外されるという見通しを示しました。日本については、除外のリストに載っていないと明言する一方、日米両国の間で自由貿易協定(FTA)を締結することに意欲を示しました。16〜18世紀、主権国家形成期の絶対王政諸国が採った「重商主義」政策が保護貿易主義の最初の形態でした。東インド会社に貿易を独占させるなど典型的な重商主義を展開していた英国では、産業革命などを経て、産業の発展には保護主義はかえって有害であると説くアダム・スミスやリカードらの自由貿易主義が台頭し、次第に政策を転換していきました。そんな英国から独立した米国が、第二次大戦後に関税貿易一般協定(GATT)の発効を主導し、1995年のWTO体制の道筋をつくりました。2世紀あまりを経て、自由貿易やグローバリゼーションの深化を米国民から富や繁栄を奪った「敵」とみなし、「米国製品を買い、米国民を雇う(Buy American, Hire American)」を第一のルールに掲げたトランプ大統領率いる米国は、重商主義に「先祖返り」してしまうのでしょうか。トランプ政権が鉄鋼製品への関税に加え、通商法301条に基づき、中国からの幅広い輸入品に関税を課す制裁措置の発動を決めたことで、中国政府は報復措置も辞さない構えです。EUも当面は除外されるものの、最終的な除外決定が行われない場合、米国からの輸入品に報復関税を課すとして、対象となる品目リストの素案を公表しています。一方のトランプ氏は「貿易戦争は他国に損害を与えるが米国は無傷だ。貿易戦争は悪いことではない」と、全く意に介していません。そもそも米政権の強硬策は中国の軍事的・経済的台頭を対象にしたものですが、中国のアジアにおける覇権追求や、経済分野での不公正な貿易慣行について、米国一国の法律や政策で対応できないことは自明の理です。日本、韓国などのアジアの同盟国や欧州との連携の意義を無視し、独善に走る米国の手法は逆効果です。今回の措置について、米政権は世界貿易機関(WTO)が例外として認める「安全保障上の脅威」を輸入制限の理由にしていますが、同盟国である日本を対象にするなら、その意図は意味不明というほかありません。報復が連鎖する「貿易戦争」が現実味を帯びるなか、日欧と米国の同盟関係の軋みを見透かすのように、今月1日、ロシアのプーチン大統領は新型大陸間弾道ミサイルの開発を発表しました。経済・軍事両面で世界的な緊張が高まっています。(S)

「南北」「米朝」の対話で日本は厳しい立場に?

北の「非核化」から「核管理」にシフトする米韓前回の本欄では、文在寅(ムン・ジェイン)政権の五輪外交を「半分成功、半分失敗」と評価しました。「失敗」の理由として、北朝鮮が米国との対話に応じる意思があると確認したものの、その前提となる「非核化」を引き出せなかった点にあると説明しました。しかし今回、昨年「核戦力完成」を宣言した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が一転、非核化の意思を示し、トランプ米大統領に首脳会談を提案しました。提案を受け、トランプ氏も金委員長の提案を受諾したわけですから、文政権にとってはまさに「大金星」を上げたといってもいいでしょう。これは朝鮮半島での戦争回避という当面の目標達成のために、米朝首脳会談の実現に向けて精力的に動いた結果といえます。しかも、文政権は北朝鮮に制裁解除の話をしたわけではありません。制裁の究極的な目的も、北朝鮮を対話の場に引きずりだすことだったはずです。米朝の首脳が会談して戦争を回避できるとすれば、日本にとってもマイナスとはいえないでしょう。しかし、対話と非核化の実現は全く別の問題です。北朝鮮の非核化は、あくまでも韓国を含む「朝鮮半島の非核化」であって、朝鮮半島周辺に展開する米軍の原子力空母や戦略爆撃機も「核」に含まれます。これは、米国としては受け入れられないでしょう。それでは、朝鮮半島はこれからどこに向かうのでしょうか。私の予想では、残念ながら韓国と核を持った北との経済協力が進んでいく可能性が高いと思われます。現在の文政権が日本よりも北朝鮮に強い思い入れを抱いていることは火を見るより明らかです。その場合、インフラ事業などで韓国企業には大きなビジネスチャンスが訪れるでしょう。それでは核の行方はどうなるでしょうか。米韓の首脳は完全な非核化は無理だとわかっているはずです。米韓は、北朝鮮に核を持たせたとしても、いかに使わせないかの方向に舵を切っていくのではないでしょうか。その場合、日本は非常に厳しい立場に立たされることになります。核武装も真剣に議論されるでしょう。トランプ氏としては、歴代政権の北朝鮮政策と決別し、自らの実行力と指導力をアピールし、政権浮揚につなげたい考えです。頼りにするのは自らの直感と交渉術。しかし決裂すれば朝鮮半島情勢は極度に緊迫しかねません。朝鮮半島、いや東アジアの運命がこの2カ月間で決するといっても過言ではないでしょう。(H=ソウル在住)

3・11から7年 求められる「心の復興」

長く、つらい「3・11」から7年――。あの日の記憶は深く、重いものとして、今も受け継がれています。観測史上最大、マグニチュード9.0という巨大地震が東日本全域を揺るがし、巨大津波が押し寄せ、さらには原発事故による放射能漏洩へと連鎖していった東日本大震災は、岩手、宮城、福島の3県を中心に、1万5895人の命を奪いました。今なお、2539人が行方不明です(数字はいずれも今年3月1日まで=警察庁発表)。今年も被災地はもちろん、日本各地や海外でも鎮魂、復興、未来への希望に思いを託す記念行事が行われています。被災地の復興も少しずつですが進んでいます。河北新報が今年3月1日に発表した岩手、宮城、福島の3県に属する42の市町村長へのアンケート結果によると、自らの市町村の復興度合い「復興度」が「70%」以上との認識を示した首長は31人(前年調査21人)で全体の73.8%に上りました。一方で、原発事故の影響が大きい福島では、復興度30%が2人、10%が1人と低いままです。さらに同調査で、震災の風化については「感じる」20人、「多少感じる」19人で計39人となり、92.8%の首長が懸念を示しました。日本経済に明るさが見える今だからこそ、3・11の教訓を語り継いていかなければなりません。この悲劇の中から、新たな光を見出しつつ、前に進んでいくことは間違っていません。と同時に、一方で「絆」や「がんばろう!」といったわかりやすい合言葉では覆い切れない、人々の心の傷や家族の問題と向かい合うことが今後さらに必要になってくると思います。震災による心の傷は、世代を超えて影響していきます。朝日新聞の報道によると、岩手医科大などのチームが岩手、宮城、福島3県で震災後の2011年度に生まれた子供を調べたところ、「落ち着きがない」「キレやすい」など、不安定な子供が目立つとの報告が増えており、3割超に情緒や行動上の問題がみられたといいます。震災の記憶が直接なくても、地域や家庭が傷ついたことで、そこで育つ子供に影響を与えたと専門家はみています。今後、行政や専門家、地域ぐるみでさらなる対応が必要になってくるでしょう。一方で、3・11後の私たちに投げかけられた根源的な問い、すなわち「人が生き、死ぬとはどういうことか」「人生の意味とは」といったテーマについて、自身の内面でも家族の間ででも向き合い、考えてみる時間をもちたいものです。(S)

五輪外交は「半分成功 半分失敗」

ポスト平昌、対北朝鮮で真価問われる文政権平昌冬季五輪が閉幕しました。北朝鮮はもちろん、韓国や米国、日本を含めて各国の思惑が交錯した、かつてないほど政治色の濃い大会となりました。今回のコラムは、韓国の立場から大会の意義を振り返り、今後の見通しを立てていきたいと思います。女子アイスホッケーの南北合同チームが結成されるなど、北朝鮮との融和ムードの演出に力を入れたいわゆる「五輪外交」について、韓国の学者や専門家の多くは「半分成功した」と総括しています。「成功」の理由は、①北朝鮮からの脅威なしに大会を無事に終えることができた②北朝鮮を対話の場に連れ出した③米国の軍事オプション行使の時期を遅らせることができた――という点に要約することができるでしょう。もともと文政権は対北朝鮮戦略として、「先に対話、後に非核化」を公言していました。朝鮮戦争で大きな犠牲をはらった韓国では、「もう二度と戦争を経験したくない」との思いがとても強く、「戦争回避という意味で、文政権は北朝鮮問題をよく管理している」と評価する声も聞こえてきます。もちろん、北朝鮮が突然、融和的な姿勢を見せてきたのは、「米国の制裁と圧迫から逃れるための出口戦略」であったことは明確なのですが。逆に、専門家らが「失敗」と考えている理由は、北朝鮮が米国との対話に応じる意思があると確認したものの、その前提となる「非核化」を引き出せなかった点にあります。それでも、文政権はとりあえず米国に対し「南北対話はうまくいっている。今後の対話次第では非核化も可能だ」というメッセージを送ることができました。これに対し、米トランプ政権も現時点で多少の期待は抱いているようですので、五輪外交について「半分は成功した」と考えるのは妥当なところでしょう。問題は「ポスト平昌」です。18日に閉幕するパラリンピック後に予定されている米韓軍事演習について、文政権はすでに延期を考えています。今の対話の雰囲気を壊したくないのでしょう。軍事演習を実施すれば、北朝鮮が核・ミサイル実験に踏み切る口実を与えることになります。今回の五輪外交で明らかになったことは、文政権が非核化よりも戦争回避を優先しているということです。北朝鮮が非核化に向けた対話に応じるまで「最大限の圧力」を続ける考えの米トランプ政権とは大きな溝があります。トランプ政権が軍事オプションをちらつかせばちらつかせるほど、文政権は米国に対して疑心暗鬼となり、ますます北朝鮮との対話に前のめりになる可能性が出てくる恐れがあります。あるいは文政権は今後、非核化を目指す米国と核兵器を放棄する意思のない北朝鮮とのはざまでジレンマに陥る可能性も出てきます。韓国には、もともと北朝鮮の核問題を解決できる力がないというのがその理由です。最悪なのは、結局、文政権の対話路線で非核化を実現することができなかったばかりか、北朝鮮に核・ミサイル開発の時間だけを与えてしまったというシナリオです。そうなれば、文政権は最初から北朝鮮の核問題に口出しするべきではなかったということになります。朝鮮半島問題で何が何でも主導権を握りたい文政権。真価が問われるのはまさにこれからです。(H=ソウル在住)

「人づくりは国づくりの基本」の視点から精密な制度設計を

「高等教育無償化」で越えなければならない課題とは昨年秋の総選挙で、教育無償化を公約に掲げた自民党が信任を得たことからも明らかなように、国が次代を担う人材に投資することへの異論は少ないでしょう。少子高齢化社会の人口構造の下で、高齢者に偏っている社会保障財源の配分を「全世代型」に転換し、教育の無償化を通じて若い世代にも財源を充てることで、いわゆる「シルバーデモクラシー」の弊害を打破する狙いは間違っていないと思います。経済格差と教育格差の世代間連鎖を断ち切ることも焦眉の課題です。しかし具体的な議論が進む中で、これからはその大義や意義を具現化する細かい検討が必要になってきます。低所得世帯を対象とした高等教育の無償化については、専門家会議の第一回会合が先月30日に開かれ、支援対象となる学生の成績などの要件や、対象となる大学側にも課される要件をどうするか、そして授業料を減免する方法などについても議論がスタートしました。これは、去年12月に閣議決定された政府の2兆円規模の政策パッケージの柱のひとつで、一部の低所得世帯に限り大学などの授業料を減免したり、1年生については入学金も免除するなどとしたものです。言うまでもなく高等教育の無償化には巨額の財源が必要であり、教育投資の必要性と同時に、無償化による効果が大きい、より具体的な政策設計が急がれているのです。特に大学以上の教育無償化については、専門家の中でも意見が分かれ、財源問題のほかにも多方面から問題点が指摘されています。まずは、大学の授業料免除が教育投資のリターンとしてどこまで期待できるのかがいまひとつ不明瞭な点です。教育格差を縮小させるために「子供たちの学齢がなるべく小さい時に行うべき」といった考えは多くの専門家の間でも指摘されており、その意味で幼児教育に対する投資の社会的なリターンの高さは、専門家だけでなく国民一般の感覚としても異論が少ないと思います。一方、大学無償化については、大学教育の質や内容について議論が続いており、結論が出ていません。多様化、複雑化する社会の中で、国民自らが自分の道を切り開くための教育は大学だけでなく、職業訓練や企業内研修、生涯教育などで行われるべきとの考えです。第2に、大学に進学しない人との公平性の問題です。5割強の日本の大学進学率では、約半数の人は高卒以下で働いていることになります。したがって大学無償化は、大学に行っていない(あるいは行けない)人々が納めた税金を、大学に行く人にあてがうことになるとの不公平感を指摘する声があがっています。以上の議論のほかにも、国が授業料を肩代わりすることで国から大学への介入が強まるとの反発や、逆に「無償化は教育機関への『補助金』であり、ずさんな経営をしている大学を公費でカバーするもの」との批判もあります。どれも見落とすことのできない議論ですが、それでもなお高等教育に対する効率的な資源配分が充分でないことは確かです。「人づくり革命」とともに政府は現在、働き方改革を進めていますが、テーマの1つに「雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の充実」も掲げられています。同時に、高等教育無償化の問題は「親が教育費を負担」「18歳で大学入学」「ほぼ全員が卒業して、新卒就職」といった現在の社会慣行や通念を時代に合わせて変化させていくでしょう。「人づくり」は「国づくり」の基本であることを忘れることなく、当事者意識をもって「無償化」議論を見守りたいものです。(K)

北朝鮮の「ほほえみ外交」で揺れる半島情勢

日米韓という鎖の一番弱いつなぎ目を狙う北朝鮮の「ほほえみ外交」で朝鮮半島情勢が揺れ動いています。まずは、平昌冬季五輪に合わせた公演の下見をするため訪韓した北朝鮮の芸術団「牡丹峰楽団」の玄松月(ヒョン・ソンウォル)団長が、その美貌とスタイルで韓国メディアをとりこにしました。24時間放送のニュース専門チャンネル、YTNは玄団長の一挙手一投足を伝え、最大手の朝鮮日報は玄団長の写真を一面で掲載するなど、玄団長は韓国人、特に中高年男性の心を鷲掴みにしました。今度は、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹、金与正(キム・ヨジョン)氏の突然の韓国訪問です。北朝鮮で権力を世襲してきた金一族として初めての訪韓だけに、国内外のメディアの注目を集めました。強面のイメージがある金委員長の妹とは思えない、その知的で洗練された振る舞いに、韓国では北に対する印象が一変するようでした。メディアの報道も与正氏について好意的に報道。北朝鮮が核の開発を進めていることはまるでなかったような歓迎ぶりでした。その与正氏は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に正恩氏の親書を手渡して訪朝を要請したわけですが、これも見事でした。文大統領の葛藤は相当なものでしょう。訪朝したい気持ちは山々でしょうが、米国を納得させるには、訪朝の目的が「非核化に向けた」ものでなければならないからです。まずは、平昌五輪直後に予定している米韓軍事演習に注目が集まります。ここで、文氏が中止や規模の縮小というカードを切らないことを祈るばかりです。「鎖の強さは一番弱いつなぎ目で決まる」という言葉があります。逆に言えば、鎖を切るには、一番弱いつなぎ目を狙えばいいということになります。北朝鮮のほほえみ外交は、日米韓の3国の連携で一番弱い韓国を狙った、実に巧妙なものでした。しかも、韓国人の特徴である「民族に対する情」に徹底的に訴えかけました。ほほえみ外交は英語で「Charm Offensive」と表現しますが、なるほど恐るべき攻撃力です。北朝鮮のほほえみ外交がすごいのは、それが「つくり笑い」であると感じさせない点です。気付いたら、文氏がその微笑みで完全に懐柔されていた、ということがないように願いたいところです。(H=ソウル在住)