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記事一覧(95)

迫る米朝首脳再会談で「非核化」停滞の打開なるか

内憂抱えるトランプ氏、中朝の術中にはまる危険性も北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の側近で、米国との高官協議を担当する金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長が17日夜(日本時間18日午前)、経由地の北京から空路ワシントン入りしました。18日にポンペオ米国務長官と会談し、2回目の米朝首脳会談の開催地や日程について協議するとみられています。米国の複数のメディアは、トランプ大統領との面会後、開催が正式に発表される可能性があると伝えています。正恩党委員長は8日の中朝首脳会談で、昨年6月以来となる2回目の米朝首脳会談に強い意欲を示しました。会談の内容を知りうる複数の中朝関係者は、正恩氏は米国が譲歩する必要があるとし、経済制裁の緩和と朝鮮戦争の平和協定締結を働きかける考えを示したといいます。歴史的な会談とされた昨年6月のシンガポール会談では、ある意味、両首脳が直接顔を合わせ、朝鮮半島、東アジアの安定に向けて前向きなメッセージを語ることで良しとされましたが、2度目となる会談では 真に中身のある結果を出すことが何よりも求められます。ここで心配なのは、下院の主導権を民主党に奪われて国境の壁建設が暗礁に乗り上げ、モラー特別検察官のロシア疑惑捜査が身近に迫るなど、国内で追い込まれるトランプ氏が、“手柄”を焦るあまり、中朝の術中に陥る危険性です。すなわち中朝に「朝鮮半島、東アジアの平和と安定を実現した偉大な人物」とおだてられ、「核保有承認」「在韓米軍撤退」などを約束させられれば、それこそ中朝の思う壺です。ブッシュ政権時の6カ国協議の顛末を知るジョン・ボルトン国家安全保障担当担当補佐官もいるので心配ないと指摘する声もありますが、注視する必要があります。昨年3月まで米国務省の北朝鮮担当特別代表を務めたジョセフ・ユン氏は毎日新聞とのインタビューで、米朝首脳の再会談について「北朝鮮の非核化のプロセスで具体的な合意がなければ成功とは言えない」と述べましたが、そのとおりです。正恩氏は今年年頭の「新年の辞」で、「朝鮮半島に恒久的な平和体制を構築し、完全な非核化に進もうとすることは、党と政府の不変の立場で、私の確固たる意志」であるとし、「既にこれ以上、核兵器を作ることも実験することもせず、使いも広めもしないと宣言してきた」と語ったとされています。しかし、米国は非核化とは朝鮮半島ではなく、まず北朝鮮の非核化であり、「これ以上の」核製造・保有ではなく過去も含めた全核兵器の廃棄であることを明確にしなければなりません。トランプ氏の足下を見つつ、交渉破綻の可能性を示唆しながら交渉で譲歩を迫る北朝鮮は、韓国とも急速に関係緩和を進め、韓国からの経済支援を先行させようとしています。一方、あれほど反日を掲げていた中国も米中対立が激しさを増す中で、態度を一変し、日本に接近を図っています。これは明らかに対米関係を有利に進めるために日米同盟を分断しようとする中国の対日戦略の一環でしょう。私たちはこうした状況をしっかりと見定め、まずは米国との関係をますます強固しながら、トランプ政権の対北朝鮮交渉で安易な妥協がないように注視する必要があります。(W)

電通調査の「LGBTは8.9%」をどう見るか

カテゴリーの見直し含む客観的、中立的な調査研究が必要今月10日、電通が「LGBT調査2018」(2018年10月実施)の結果を発表し、自らを性的少数者と考える「LGBT層に該当する人」の割合が8.9%に上ったと明らかにしました。2015年調査の7.6%からさらに上昇しており、この数字が正しいとすれば、国民の11人に1人が性的少数者だということになります。同社は「LGBTに関する情報の増加と理解の進展」を背景として挙げました。一方、ほぼ同じ時期(2018年7月)に無作為抽出で実施された名古屋市の意識調査では、自らを性的少数者であると答えた人はわずか1.6%でした。電通調査と名古屋市の調査では、なぜこんなにも差が生まれるのでしょうか。一つには、調査対象の違いが挙げられます。名古屋市が18歳以上のすべての年代を含んでいるのに対して、電通調査は20〜59歳で60歳以上を除外しています。さらに、名古屋市が無作為抽出であるのに対して、電通は自ら指摘しているように、アンケート対象の若年構成比が高くなっています。名古屋市調査でも若年層の性的少数者比率は突出して高くなっているため、高齢者を除外し、若年層に偏った電通調査の比率が高目に出るのは避けられません。他にも、電通調査を担当したのが「電通ダイバーシティ・ラボ」という、あまり中立的とはいえない部局であることや、インターネット(電通)と郵送(名古屋市)という調査手法の違いも影響しているかもしれません。また、質問の仕方による違いも当然あるでしょう。いずれにせよ、電通調査の結果は一般的な感覚からするとにわかには信じがたいというのが実際のところです。「8.9%」を文字通りとらえると、学校でも1クラス当たり3〜4人という計算になりますが、2017年に大阪市立小中学校で実施した調査では、「LGBTの生徒がいる」と答えた学校は、440校中わずか50校にとどまりました。つまり数十クラスに1人いるかいないかという数字です。同性パートナー制度を設けた自治体をみても、全婚姻件数に占めるパートナーシップ制度利用者の割合は1%未満にとどまっています。メディアで大々的に取り上げているほどのニーズはないというのが実情でしょう。これは電通に限りませんが、「LGBT」「性的少数者」というカテゴリー自体を、そろそろ見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。同性パートナー制度導入や「LGBT理解増進」などの政策論議が活発化するなか、実際のニーズや効果を客観的に把握することが望まれています。その際、性別違和(性同一性障害)など心と体の性別に関する「性自認」の問題と、異性、同性、どちらに性的に引きつけられるかという「性的指向」の問題は厳密に区別して取り扱うべきです。たとえば、同性パートナー制度などは、同性愛、両性愛者が必要だと主張する制度であり、性別違和の人にとっては全く関係ありません。また性分化疾患など純然たる先天的な病気と、子供に多く見られる一時的な性別への違和感は、原因から対処まで全く異なるものであり、ひとくくりにすべきではありません。電通の「8.9%」についても、その内訳を精査する必要があります。ちなみに2015年の「7.6%」では、レズビアン(女性の同性愛者)0.5%、ゲイ(男性の同性愛者)0.9%で、同性愛者全体をあわせても1.4%に過ぎませんでした。両性愛者(1.7%)に特別な保護が必要かどうかは疑問ですから、同性パートナー制度の必要性を論じる際に根拠とすべき数字は7.6%ではなく、1.4%です。ちなみに名古屋市調査では、レズビアン、ゲイをあわせても0.3%でした。最後に、名古屋市の調査で気になった点を指摘しておきましょう。それは若年層、特に女性の間で性的少数者を自認する人が急増しているということです。40歳以上の女性では1%未満だったものが、30〜39歳では2.4%、18〜29歳では8.0%と急増しているのです。実は、欧米でも同様の傾向があり、米国でも性解放以降に思春期を迎えた世代からLGBTの比率が増加しています。これは、性自認や性的指向の問題の少なくとも一部が、先天的なものでなく、文化、社会的な影響で生まれている可能性を示唆するものです。離婚の増加などによる夫婦愛のロールモデルの喪失、同性愛を含む性情報の氾濫、さらには性虐待によるトラウマなどが、若者の性意識や性行動に混乱をもたらしている側面はないのでしょうか。客観的、中立的な研究を深める必要性を感じます。(O)

置き去りにされている「結婚と家庭の価値」についての議論

「未婚のひとり親支援」拡充の是非について考える12月14日、自民、公明両党は2019年の税制改正大綱を決定しましたが、最後まで紛糾したのは「未婚ひとり親」に対する「寡婦控除」適用をめぐる議論でした。現行の寡婦控除では、死別や離婚が原因のひとり親に対する所得税、住民税が軽減されますが、未婚のひとり親は対象外となっています。これに対して公明党は「ひとり親で生活が苦しいのは同じなのに、婚姻歴のあるなしで差別されるのはおかしい」として、寡婦控除の未婚ひとり親への拡大を主張。自民党の一部議員は「未婚での出産を助長しかねない」「婚姻を尊重する伝統的家族観を守るべきだ」と激しく反論し、議論は平行線をたどりました。最終的には、あくまでも「子供の貧困対策」との名目で、住民税のみを軽減することで妥協が成立しました。ただし、公明党は来年以降も寡婦控除の完全適用を要求する方針で、今後も議論は続きそうです。ひとり親家庭の子供の貧困率が50%以上に達するなか、一見すれば、公明党の主張に理があるように思えます。しかし、そもそも、支援を必要とする「ひとり親家庭」を増やさないための取り組みがない中で、なし崩しに支援の拡充だけを行うことは危険です。問題の根本解決のためには、自民党の一部議員が主張したように、婚姻制度の崩壊を食い止めなければなりません。ネット上の反応も複雑でした。子供たちの養育環境を整えるために支援が必要なことに理解を示しつつも、制度の悪用への懸念を示したり、先の見通しもないまま未婚で子供を産んだ親の自己責任はないのか、と突き放すような意見もありました。そのなかに「子供の本当の父親に養ってもらえばいい。国を頼りにすべきでない」とのコメントがありましたが、問題の本質をついた意見です。性的虐待や強制性交等の被害者を除き、子供が生まれるということは、男女が同意のうえで性行為に臨んでいるわけです。したがって、その行為の結果として生まれた子供の養育に、子供の本当の父親、母親双方が責任を持つのは当たり前のことです。深刻なDV等による避けられない離婚や死別が原因であれば、ひとり親支援にも正当性がありますが、そうでない安易な離婚や未婚の場合、支援に疑問を持つ人が現れても不思議ではありません。実際に、未婚のひとり親が生まれる背後には、多くの場合、女性と性関係を結びながら、その行為の結果を引き受けない無責任な男性の存在があります。離婚の場合でも、日本では養育費をきちんと支払う元夫は2割ほどしかいません。すべての子供の福祉を真剣に考えるなら、公的支援以前に、そうした無責任な親(多くが男親)を生み出さない努力が必要なのです。家族の多様化を根拠にして福祉の充実を主張する人は、よく北欧の事例を持ち出します。しかし、婚外子が過半数に達するスウェーデンでも、子に対する親の養育責任に対しては厳格です。生まれた子供に対しては、たとえ未婚であっても遺伝上の父親を特定し、養育費を支払う義務が課されます。もしもその義務を履行しない場合は、強制的に取り立てる制度もあるほどです。いずれにせよ、性行為は、その結果としての生命に対する重い責任が伴うことを社会全体で認識すべきでしょう。本来、神聖な「性」を安易に扱い、一時的な恋愛感情にともなうコミュニケーションや、快楽の道具に貶めてしまったことが、ひとり親家庭急増の根本的な原因の一つです。未婚ひとり親支援をめぐって生まれた本音の議論が、性倫理教育、結婚・家庭価値の教育の推進に結びついていくことを切に願うばかりです。性と生命に対する倫理的責任を深く自覚する男女を育てることこそが、すべての子供に幸福をもたらす最善の方法だからです。(O)

深まる米国社会の分断に懸念

中間選挙で見えた米民主主義の転換点6日の米議会の中間選挙は、上院は与党・共和党が過半数を維持した一方、下院は民主党が過半数を制しました。トランプ大統領が早々と勝利を宣言する一方、民主党も下院奪還で歓喜に沸くという結果となりました。日本の多くのメディアはこれを「ねじれ状態」と報じ、トランプ氏の政策に一定の歯止めがかかると指摘しています。ただ、多くの民主党支持者が期待した「ブルーウェーブ(青い波)」は起きませんでした。もともと中間選挙では与党が大きく後退するのが通例であることを考えれば、上院はもちろん、下院でも共和党が事前の予想より健闘したという見方が妥当ではないでしょうか。実際、マーケットの反応もこの見方に沿っているといえます。一方で、今回の中間選挙に至る過程では、共和、民主両党の関係者や支持者に爆発物が送られるテロがあったほか、乱射事件、移民を乗せたキャラバン、LGBTQらの権利、若者、女性など、米国の主要なイシューを想起させる出来事が多数ありました。結果として、中間選挙で史上最年少候補者や、LGBTを公にしている候補者、女性候補者やムスリム候補者が多く当選していることは、米国民主主義の歴史上、大きな転換点を印象づけるものになりました。また、負けて議席を失った議員は両党ともに穏健派と思しき人が多いのが特徴です。中道が分解され、極端な「アメリカ・ファースト」とリベラルに収斂していくプロセスと指摘する声もあり、米国の分断は簡単には解消されそうにありません。(W)

独メルケル氏「退場」で揺れるEU

メルケル独首相は10月29日、与党・キリスト教民主同盟(CDU)が12月に開く党大会で党首として再選を目指さず、首相も2021年までの現在の任期限りで退き、政界からも引退すると表明しました。今回の決断は、ドイツ産業の集積地であるバイエルン州議会選に続き、金融の中心都市フランクフルトなどがあるヘッセン州議会選でも敗北、しかも大敗という結果を受けての引責辞任という形です。バイエルン州の場合、CDUの姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)の後退でしたが、ヘッセン州での敗北は首相自身が率いるCDUのものだったため、より直接的な打撃になったものとみられます。メルケル氏の「退場」は、ドイツのみならずEUにも大きな波紋を広げています。2005年にドイツ首相に就任して以来、メルケル氏は欧州連合(EU)の実質的トップとして影響力を行使してきました。EUの経験したバブルとその破裂、さらには欧州債務危機など幾多の困難にも重要な仲介者の役割を果たしてきました。名実共にEUの礎を築いた政治家の1人と言われるメルケル氏が、EU誕生からちょうど25年となる11月1日を前に退場を発表したことは、一つの時代の終わりを象徴するものとなりました。メルケル氏にとってターニングポイントなったのは、2015年夏、ハンガリーが国境の防衛を唱えた時、これを非人道的と非難し、「難民は1人たりとも拒否しない」と主張した出来事でした。その後、そのドイツ自身もあまりの難民の多さに流入制限に舵を切らざるを得なくなってしまったことが失敗と評価されてしまったのです。今日の難民問題に対する世論の趨勢は、反グローバリズムの高まりと軌を一にしています。すなわち、自国の政治、経済、治安が破綻したという理由で、法律や国境手続きを無視して経済大国に押し寄せ、豊かな国の富の分け前にあずかろうとする人々に対し、多くの人々が不公平感を感じています。これは自由貿易に象徴されるグローバリズムの結果、自分たちの生活や雇用が脅かされていると主張する中間層の人々の思いとリンクしています。まさに、今回のブラジル大統領選挙の結果、トランプ大統領の人気、そして、メルケル政権へのNOがそのことを表しているといえるでしょう。今後の大きな懸念は、そうした反グローバリズムが排他的な「人種差別主義」や極右的な「愛国主義」と結びついて、一種の「ポピュリズム」(大衆迎合主義)に陥っているようにみえる点です。反グローバリズムを掲げる政治家が、本当にグローバリズムの弊害に歯止めをかけられるのかは疑問です。英国がEU離脱の国民投票を実施する前、反対派はEUへの負担金の大きさをその理由に上げていましたが、現在、英国が進めているのは離脱後にも負担金を支払いながら域内の自由貿易の恩恵にあずかる道です。今後、EUの盟主である独仏の連携がEU存続の鍵を握ることになりますが、南北問題、英国の離脱、そして難民問題などに、メルケル後のリーダーが適切に対応できるのでしょうか。(S)

移民受け入れ問題、日本でも国民的議論を始めるべき

「移民キャラバン」1万人が米国に向け北上中中米・ホンジュラスなどから米国に向けて、大勢の移民が隊列を組んで移動中、というニュースが注目を集めています。その名も「移民キャラバン」。彼らは米国への入国をめざして主に徒歩で北上中で、中には赤ちゃんを抱いたり、子供の手を取ったりして進む人も多くいます。元々は10月中旬に、中米・ホンジュラス北西部の都市サンペドロスラのバスターミナルに集まった100人あまりが米国をめざしていました。さらに、SNSを通じて集まった約2000人がキャラバンを組織。彼らの多くは自国の凶悪犯罪や政情不安、貧困から逃れるために米国行きを決めたといいます。その後、グアテマラを通過しメキシコに入る道程で、エルサルバドルなどからの参加者も吸収し、雪だるま式に膨らんだ結果、現在、その数は7000人から1万人とみられています(国連推計)。この問題を巡り、トランプ米大統領は毎日のようにツイッターで移民キャラバンを非難。移民の入国を阻止するため、メキシコとの国境に最大1000人の実戦部隊を派遣する方針を25日に明らかにしました。また、キャラバンを止められない中米諸国への援助打ち切りもちらつかせています。米国では議会の中間選挙直前ということもあり、大きな話題となっています。一部には、中間選挙を狙って、移民の米国入国を支援してきたNGO「国境なき人々」(Pueblos Sin Fronteras)が意図的にキャラバンを組織したと指摘されています。これが事実だとしたら、皮肉なことに、今のところこの問題は反移民姿勢をとるトランプ氏と共和党に有利に働いているように思われます。映像で報じられるキャラバンの光景は、トランプ氏が訴えてきた移民の脅威や「壁」の必要性を証明しているように見えるからです。今後、トランプ政権がキャラバンに対して強硬姿勢を取った場合に、米国世論がどのように動くかは不明ですが、トランプ氏は「キャラバンにはベネズエラの左翼や民主党が資金提供している」「中東出身者が紛れ込んでいる」などの発言を繰り返しており、中間選挙対策に利用される巡り合わせになってしまいました。ただ、こうした米国の政治的側面を抜きにして考えてみると、移民問題は実に難しい問題です。移民問題が発生する背景には大きく分けて、「社会・文化」と「経済・雇用」の側面があると言われます。私たち日本人の多くは他国に移住して、その国の人間になろうとは考えていません。それは社会が安全で文化的も恵まれており、格差の問題が指摘されているとはいっても国を捨てるほどではないと考えるからです。しかし、世界にはそうでない人々がいることを直視しなければなりません。経済的に困窮し、日々、生命や安全が脅かされている人々が他国に雇用と安全を求めようとすることを「いけないこと」と言えないのが移民問題の難しさではないかと思います。ひるがえって、労働力としての外国人受け入れ拡大に動きつつある日本。移民受け入れで激しい議論が繰り返されるEUはもとより、多文化主義を掲げる代表的な移民国家、カナダやオーストラリアなどが受け入れに苦慮している現実を前に、これまで国民国家としての一体性を保ってきたわが国も、転換点に差し掛かっているといえるでしょう。(S)

停滞する日韓 不断の努力で関係再構築を

「日韓共同宣言」から20年 許されぬ冷笑的態度1998年10月に当時の小渕恵三首相と金大中(キム・デジュン)大統領が発表した「日韓共同宣言」から20周年。サブタイトルとして「21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」と冠した同宣言は、日本が韓国に対し、過去の歴史への反省とおわびを初めて公式に明文化するとともに、韓国も戦後の日本の平和への取り組みについて評価する内容でした。両国間に横たわる歴史問題に区切りをつけ、和解と未来志向の関係発展をうたう画期的な内容だったといえます。東京千代田区のホテルで9日、「日韓パートナーシップ宣言」20周年記念シンポジウムが開かれ、会場に駆けつけた安倍首相は、現在、日本で人気のある韓国料理「チーズ・タッカルビ」に触れて「第3次韓流ブームが起こっている」と述べ、参加した両国関係者を和ませました。ただ両国関係には改善の兆しが見えず、さまざまなあつれきが続いています。今月5日、韓国は自国開催の国際観艦式において海上自衛隊が自衛艦旗である旭日旗の掲揚を自粛するよう求めて譲らず、日本は派遣を見送りました。8日、共同宣言20周年を報じた韓国・中央日報は「日韓関係はこじれており転換点ははるか遠い」と悲観的な見方を示しました。また、国民日報も「領土問題や慰安婦問題で日韓関係が日に日に悪化しており、共同宣言の意義は薄れつつある」と指摘しました。さらに、韓国政府は慰安婦合意に基づいて設立した「和解・癒やし財団」の解散を示唆。文氏は9月の日韓首脳会談で、解散を求める韓国世論を伝えたといわれ、慰安婦問題を担当する陳善美(チン・ソンミ)女性家族相も11日、財団について「速やかに処理する」と述べ、解散させる方針を示唆したものと受け止められています。これに加え、朝鮮半島情勢が目まぐるしく動くなか、青瓦台(韓国大統領府)の関心は北朝鮮と米国に集中しているというのが実情でしょう。今年に入って、日韓政府が温めていた10月8日を前後する文大統領の国賓としての来日と、新たな日韓宣言の発表という構想も立ち消えになってしまいました。一方の日本は、北朝鮮の核・ミサイル問題や拉致問題の解決に向け、韓国との連携を重視しています。対立が先鋭化しないよう「友好」維持に腐心しています。9日のシンポジウムは200人ほどの小規模なものだったにもかかわらず、安倍氏はあえて参加。そこで「隣国ゆえに難しい問題があり、乗り越えるには政治のリーダーシップが必要だ。関係発展へ文在寅(ムン・ジェイン)大統領と努力したい」と強調したのもその熱意の表れといえます。いうまでもなく、朝鮮半島の平和と非核化に向けた南北対話が進むなか、この地域の平和定着のために日本の果たす役割は決定的に重要です。であれば、両国関係の現状を冷笑的に見つめることは許されません。民間の人的、文化的交流の拡大はもちろん、政府間の粘り強い努力が今後も必要です。歴史認識問題などの解決は容易ではありませんが、調整役を買って出るような知日派・知韓派の政治家や経済人のネットワークの再構築が急務です。日韓関係について、「日本は未来志向を強調し過ぎ、韓国はあまりにも過去に執着する」といった声がよく聞かれます。これを変化させ、韓国が未来志向を強調し、日本が過去を見るよう呼びかけるメッセージが共有されなければなりません。そのための羅針盤として日韓共同宣言は20年の時を経てなお、私たちに行くべき方向を示してくれているのではないでしょうか。(U)

対米「新通商交渉開始」で実を取った安倍氏

「自由貿易の旗手」としての日本の役割とは貿易不均衡の是正問題に焦点が当たっていた26日の日米首脳会談で、両国は新たな通商交渉の開始で合意しました。会談後に発表された共同声明によると、合意されたのは以下の3点です。  ・国内での調整をへて、日米物品貿易協定(TAG)締結に向け、農産品などの関税を含む2国間交渉の開始する  ・米国が検討する自動車などの関税引き上げ措置は交渉中には発動しない  ・日本の農林水産品は、環太平洋連携協定(TPP)などの過去の経済連携協定水準を上回る関税の引き下げはしない今回の合意について、結局は「先送り」「時間稼ぎ」と指摘する声があるのは事実です。ただ、韓国が米韓FTAの再交渉に応じたものの自動車の追加関税を回避する成果が得られなかったことや、カナダがNAFTAの対米再交渉に応じない姿勢を貫いたことで、関係を悪化させている状況などを考えれば、安倍外交は一定の評価を得て良いのではないかと思います。トランプ氏は中間選挙を控えて、日本に圧力を加えたという「事実」を得ました。また、TPP加盟を主張する日本に対し、TAGという形でFTAへと広がる可能性のあるテーブルに着かせたと主張できます。一方、日本は実を取ったかっこうです。最大の脅威である自動車関税を一時的に回避し、TPPの水準に農産物の関税を押さえ、投資・サービス分野の開放はしないということで話をつけたことになります。米国のTPP復帰を主張しFTA交渉は避けたいとして来た日本政府にとって、FTA交渉を受け入れた訳ではないと主張できるTAG交渉入りは妙手といえるでしょう。ただ、自動車問題が日本の喉に刺さったトゲであることは確かです。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表も26日の首脳会談後、記者団に対し、日米交渉のキーエリアは自動車であると認めています。今回の合意で、自動車輸出への25%関税の実行はいったん回避されることになりますが、日本政府関係者からは「どこかの時点で、米国から押し込まれるリスクを抱えることになった」との声もあがっており、今後も難しい対応を迫られそうです。問題はその先です。安倍首相が国連演説で宣言したように、日本には自由貿易を守る旗手となる責任があります。米国とうまくつきあいながら多国間主義にのっとったリーダーシップが求められています。グローバル経済の“いいとこ取り”で国家資本主義を突き進む中国は、当面、アジアと世界の安全保障上の脅威であり続けるでしょう。北朝鮮をめぐる情勢も動くなか、日本は米国、韓国をはじめ多国間による解決に導く貢献をすべきです。(W)

米朝「仲介者」として真価問われる文大統領

~第3回南北首脳会談で金委員長に大幅な譲歩迫る?~今回は、来週18日から開催される第3回南北首脳会談の行方を占いたいと思います。ご存知のように、現在、核を巡って米朝関係が停滞しています。実効性のある非核化に向け、核開発の全容把握が欠かせないとする米国と、休戦状態にある朝鮮戦争の終戦宣言を優先すべきだと主張する北朝鮮との間には隔たりが大きく、交渉は入口で行き詰まってしまった状態です。通常、非核化のプロセスは「凍結→申告→査察→検証→破棄」の順番になるわけですが、現段階では、その最初のステップである凍結が終わったという認識です。それ以降のプロセスとして、米国側の「申告・査察→終戦宣言」と、北朝鮮側の「終戦宣言→申告・査察」という優先順位を巡って溝が埋まらないというのが今の状況であるわけです。ですから来週の南北首脳会談で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は金正恩(キム・ジョンウン)委員長に対し、非核化に向けた「大胆で予想を超えた譲歩」を求めるはずです。そして、その内容を持って、今度はトランプ大統領にも大胆な譲歩を求め、自身の公約である「終戦宣言の年内実現」に向けて弾みをつけたいところでしょう。筆者の予想は、今回の文氏の訪朝をきっかけに、米朝関係や朝鮮半島情勢は一気に進んでいくというものです。理由をいくつか上げますと、何よりも文氏と正恩氏との間には信頼関係があります。聞くところによると、文氏は正恩氏のことを「彼は国のトップに立って以来、約束した内容をすべて実行している」と言い、正恩氏は、文氏の政権初期の段階で信頼関係を築けたことをとても喜んでいるといいます。次に、「終戦宣言と在韓米軍の動向とは全く関係がない」という正恩氏の発言です。これを額面通り受け取るかどうかは賛否が分かれるところですが、少なくとも文政権の中枢は正恩氏の言葉をそのごとく捉えているようです。実際、終戦宣言をしたからと言って、それがすぐに在韓米軍の撤退につながることは万が一にもありえません。また、先日、ロシア・ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでは、中国の習近平主席が「終戦宣言は米朝間の問題」とも発言しています。平和協定に全く関わらないというわけではないのでしょうが、この発言も文氏にとって追い風となっています。課題があるとすれば、政権と官僚の対立でしょう。官僚から政権トップへの「ボトムアップ型」が従来の外交プロセスですが、現在の米朝は完全にトップダウンという仕組みになっています。心配なのは、トランプ氏と正恩氏がトップ同士で決定した内容を官僚が履行できない(しない)という状況が生じた場合です。いずれにせよ、文氏と正恩氏、トランプ氏との間で信頼関係さえできれば、正恩氏の言葉のごとく「核が必要なくなる」という状況に発展する可能性が低くないと思われます。今の「トランプ・正恩・文」の関係が、核問題を解決できる千載一遇のチャンスかもしれません。そのカギを握る文氏の来週の訪朝から目が離せません。(H=ソウル在住)

「日米に溝」大手メディアの世論誘導に注意

トランプ氏「真珠湾」発言と日朝極秘会談報道の裏側日米政府は安倍首相が自民党総裁選で3選された場合、トランプ米大統領との首脳会談を9月25日に米国で行う方向で最終調整に入ったようです。北朝鮮や日米通商問題について協議する見通しです。一方、メディアからは「日米蜜月」に疑問を呈する論調も目立ち始めました。直近では、米ワシントン・ポスト紙(電子版)が8月28日、6月の日米首脳会談で、トランプ氏が安倍氏に対し「私は真珠湾を忘れない」と述べた上で、対日貿易赤字に強い不満を表明したと報じました。また、同じポスト紙は米高官の情報として、日本と北朝鮮が今年7月、ベトナムで米国に知らせずに極秘裏に会談を進めたと報じました。日本側からは情報機関である内閣情報調査室トップ、北村滋内閣情報官が、北朝鮮側からは金聖恵(キム・ソンヘ)統一戦線策略室長がそれぞれ参加したと伝え、これに対し米側が不快感を示したと書いています。日本の時事通信や韓国の中央日報などもポスト紙を引用する形で報道し、日米関係悪化を匂わせています。しかし、本当に日米関係は悪化しているのでしょうか。私たちは、こうしたメディアが今頃になって6月の会談を持ち出し、しかも「真珠湾」などの単語を強調して報じている点に注意を払う必要があると思います。さらに、直接関係のない7月の極秘会談をこれにつなげて報道する意図は何でしょうか。ご存知のようにワシントン・ポストは米国を代表するリベラル系新聞で、事あるごとにトランプ政権と対立してきました。反トランプと言われる巨大企業アマゾンのCEO、ジェフ・ベゾス氏が同紙のオーナーであり、トランプ氏も「ベゾスがアマゾンのロビー活動拠点としてワシントン・ポストを利用している」と非難しています。こうした対立がある一方で、トランプ氏のツイッターなどの発言をみても、今のところ「真珠湾」発言や日朝極秘会談に対する言及や批判的なコメントはありません。今回の件では、むしろメディア側が「真珠湾」「不快感」などの感情的なワードを、発した主体や経緯を曖昧にしたまま報道している点に疑問を抱かざるを得ません。メディアが「日米関係に溝をつくる」という意図を持って情報操作をしているとすれば、これは大きく国益に反する行為であり、安全保障上の大問題です。こうした報道にそそのかされて両国関係にマイナス感情が醸成されることのないよう注意しなければなりません。すでに今回の報道を受け、一部メディアでは「官邸は『真珠湾』発言の否定に躍起」といった報道も出ているようですが、事実であるなら困ったことです。読者である私たちも、しっかりとしたメディアリテラシーを身につけ、冷静な目で情勢を判断したいものです。(Q)

なぜ日本では修士・博士が増えないのか

待遇改善の前に社会全体で考えるべきこと日本の科学技術力低下に歯止めがかからない現状が明らかになっています。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が、22日に発表した国内外の科学技術動向の調査報告によると、人口当たりの修士・博士号取得者が近年、主要国で日本だけ減ったことが判明しました。また、基礎研究を担う大学に行き渡る研究費が2016年にドイツに初めて抜かれて世界4番目に落ちました。同所がまとめた「科学技術指標2018」は、学術論文の動向などを欧米や中国など主要国と比較し、日本の国際的な立ち位置が確認できるものです。その中で、日米英独仏中韓の7カ国で修士・博士号の人口100万人当たり取得者数を、2014〜17年度と08年度で比べた結果、日本だけが修士・博士号取得者は横ばい、または減少していました。大学部門の研究費は、日本は16年で2.08兆円だったのに対し、独は2.17兆円となり、比較可能な1981年以降で初めて抜かれました(トップは米6.77兆円、中国3.09兆円)。予算面でも人員面でも見通しが暗い日本の科学技術力。その原因について、これまでは研究者の働き方や給与面の待遇をはじめ、文科省などが強いる恣意的な選択と集中の結果、大学の安定的な財源が低下し、研究者のポスト削減が著しい点が指摘されてきました。しかし、そもそも多くの人が博士号や修士号を取得する社会になるためには、研究者の待遇改善とともに、それが明らかに社会にとって有益であると認識される必要があるでしょう。社会の課題と向き合い、その解決を模索する過程で、ハイレベルな研究者の知見がより国や地方行政の政策施策に生かされやすい仕組みを作る必要があると思います。学問や研究成果をめぐるこうした本質的な問いかけは、けっして大学や研究機関だけに投げかけられるべきではありません。今日の科学技術力低下の問題は、世の中の変化に合わせて、社会が公教育や研究者をどう扱うかについて考えてこなかった結果とも言えるからです。修士・博士卒の人材が専門性を生かして社会で活躍するには、その下支えとなる文化が不可欠です。とかく実務(現場)経験や人間関係が重視される日本社会で、より高度な専門性や体系的なアプローチが評価される文化です。人工知能やロボット、宇宙工学にエネルギー――。例えば、こうした最先端分野の技術力は経済・ビジネスの分野だけで生かされるのではありません。欧米、中ロなど各国では、その研究結果の多くが軍事分野への転用されるか、そもそも軍事技術から生まれている事実からすれば、科学技術力の低下はすなわち国の安全保障に関わる問題とも言えます。学問の軍事利用は日本ではタブー視されますが、だからといって両者の関係性から目を背けてはいられないのです。日本の国力を底上げするためにも、もっと社会とアカデミアの往き来が活発になることを期待します。(M)

ボランティアの“経験値”をどう共有し生かしていくべきか

不明2歳児「奇跡の救出劇」が示唆した可能性良かったー! 山口県周防大島町で、家族で帰省中に12日から行方不明になっていた藤本理稀ちゃん(2)が15日午前6時半ごろ見つかったとの一報に、多くの人が胸をなでおろしたことと思います。行方不明になってから68時間が経過していたにもかかわらず、軽い脱水症状だけで健康状態に大きな問題がなかったのも奇跡と言えるでしょう。安堵の思いとともにもう一つ、私たちの胸を打ったのは、理稀ちゃんを発見、保護した78歳のボランティア男性の生き方でした。尾畠春夫さんは理稀ちゃん行方不明の報道を見て、14日午後に大分県日出町から現地に駆けつけ、15日早朝から捜索にあたり30分足らずで発見に至りました。発見後、メディアの取材に対し「小さな命が助かったと思った。本当にうれしかった。助かってよかった。ただそれだけ」と涙ながらに語る姿に、無私の心で人の役に立ちたいと願う尾畠さんの人柄がにじみ出ていました。もともとは大分県内で鮮魚店を営んでいた尾畠さんは65歳で仕事を辞め、「たくさんの人たちの優しさや感謝を受けて育ったこの世の中に何か恩返しをしたい」とボランティアを選びました。好きな登山を生かして山道の整備をしたり、被災地ボランティアとして、2011年の東日本大震災では、宮城県南三陸町で遺品探しなどの活動をしました。さらに、最近では西日本豪雨の際、広島・呉市でも泥かきを手伝ったといいます。78歳でこの体力と行動力。ただただ頭が下がる思いです。こうしたボランティアは二次被害の可能性もあることから、誰でもできることではありません。一方で、今回の尾畠さんの姿から私たちは多くのことを考えさせられます。その一つが、ボランティアとしての尾畠さんの経験値と現場力です。「子供は上に上がる」との経験と勘から、山の上のほうを捜索エリアに定め、見事に探し出しました。尾畠さんは、2016年末に大分県で行方不明になった女児の捜索ボランティアにも参加し、その時の経験が今回の捜索で生かされたことも明らかにしています。ただ活動をするのではなく、「仮説から検証」を繰り返していくことで経験値が積み上げられていったのでしょう。あらためて経験あるボランティアの力の大きさを感じさせました。今回のような捜索活動に限らず、充実した装備や機動力をもつ消防、警察、救急などの救助部隊と、しっかりとした知識や経験値を有するボランティアがうまく連携することで大きな成果を上げる可能性が高まると思われます。こうした経験値は、例えばAIのような高度な技術をもってしても容易に得られるものではありません。だからこそ昨今、自然災害が増えるなかでボランティア活動が進む中で、こうした経験値を共有する効果的な仕組みが広がることを期待したいと思います。人の役に立ちたいという思いと行動力、そして経験値を併せもったボランティアの存在は、今回のような事例に限らず、地域課題の解決や地域活性化においても、今後ますます必要とされていくでしょう。(W)